肺癌の症状は、癌の種類や位置、その広がり方によって異なります。普通、初期症状として最も多くみられるのは、長期間続くせきです。慢性気管支炎で、さらに肺癌を発症した患者は、せきの悪化に気づきます。せきに伴うたんの中に血が混ざる、喀血(肺と気道の病気の症状と診断: 喀血を参照)がみられることがあります。肺癌が血管内にまで達すると、ひどい出血を起こします。
肺癌が気管支の内部や周囲で増殖して、気管支を狭くすると、喘鳴(ぜんめい)が生じる場合があります。気管支の閉塞によって、その気管支とつながる肺の一部がつぶれることがあり、この状態を無気肺(無気肺を参照)といいます。また、気管支の閉塞によってせき、発熱、胸痛を伴う息切れや肺炎なども起こります。胸壁の内部で腫瘍が増殖すると、持続的な胸痛が生じることがあります。
肺癌が首の特定の神経の内部で増殖すると、まぶたが垂れ下がったり、瞳孔が縮んだり、目が落ちくぼんだり、顔の半面に汗をかきにくくなるなどの症状が起こることがあり、これらの症状をまとめてホルネル症候群(まぶたが下がるホルネル症候群を参照)と呼びます。肺の上端に生じた癌が腕の動きを支配する神経の内部に増殖すると、腕に痛みや麻痺(まひ)、筋力低下などが生じ、こうした症状をパンコースト症候群といいます。声帯へ続く神経が損傷を受けると、声がしゃがれます。この損傷は主に、左肺を含む部位に癌が発症した人に起こります。
肺癌が直接、食道の内部や周囲で増殖して食道が圧迫されると、ものが飲みこみにくくなります。ときに、癌の進行によって食道と気管支の間にフィステル(瘻[ろう])という異常な通路ができ、食べものや飲みものが肺に入るために、ものを飲みこむ際にひどいせきが出ます。
肺癌が心臓の内部で増殖すると、不整脈、心臓を通る血流の閉塞、心臓の周囲にある心膜嚢への液体の貯留が起こります。癌が胸部にある大静脈の1つ、上大静脈の内部で増殖したりこれを圧迫することがあり、この状態を上大静脈症候群といいます。上大静脈が詰まると、上半身にある他の静脈への血液の逆流が起こります。胸壁内部にある静脈が拡張します。顔、首、乳房を含む胸壁の上部はむくんで、薄い紫色になります。さらに息切れ、頭痛、視覚異常、めまい、眠気なども生じます。これらの症状は普通、前かがみになったり横になると悪化します。
普通、後になって生じる肺癌の症状には、食欲不振、体重減少、疲労感、筋力低下などがあります。肺の周囲に液体がたまる胸水(胸膜疾患: 胸水を参照)は、癌が胸膜腔の内部にまで広がって起こります。胸水は息切れを起こします。癌が肺の内部にまで広がると、ひどい息切れ、血液中の酸素濃度の低下、肺性心(肺高血圧によって発症する肺性心についてを参照)が生じる場合があります。
肺癌は血流を通って、肝臓、脳、副腎、脊椎、骨に転移することもあります。体の他の部分への転移はあまりみられません。肺癌の、特に小細胞癌の転移は発症早期に起こる場合があります。肺の異常が確認される前に、頭痛、錯乱、けいれん、骨の痛みなどの症状が起こり、早期診断を困難にします。
腫瘍随伴症候群(腫瘍随伴症候群とはを参照)は、肺癌によって生じるさまざまな症状で、代謝系、神経系、筋肉など肺から離れた部位に生じます。腫瘍随伴症候群は、肺癌の大きさや位置とは関係がなく、癌が胸部以外に転移したことを示すわけでもありません。むしろ、癌のために分泌されたホルモン、サイトカインなどのさまざまなタンパク質によって腫瘍随伴症候群が生じます。