結核と区別すべき病気・治療

結核と区別すべき病気
咳がひどく長引くから結核とは限りません。同様の症状の違う病気と、正確に区別する必要がある
長引く咳を特徴とする病気は、結核だけではありません。結核と同様の症状が出た場合は、結核治療を考える前に以下の病気の有無を併せて検査し、確定診断する必要があります。
マイコプラズマ肺炎……マイコプラズマに対する炎症のために咳が出る
百日咳……百日咳菌に対する免疫反応結果で咳が出る
慢性副鼻腔炎……副鼻腔からの膿が気道に落ちることで咳が出る
咳喘息……風邪をこじらせ、風邪が治った後も咳だけが長引く
喘息……アレルギーのため咳が出る。呼吸困難になることがある
肺癌……腫瘍の部位によっては初期症状として咳がでる
長引く咳のうち、マイコプラズマ肺炎は抗生物質投与で咳が軽くなります。上記の病気のどれかを特定するには、胸部のレントゲン撮影やCTスキャン、鼻腔の CTスキャンなどの画像診断と、喀痰の微生物学的検査が主な検査となります。画像診断で結核が疑われても、微生物学的検査で結核菌が確認された場合に初めて結核であると診断されます(詳しい検査法については、「結核の検査法」をご覧ください)。
微生物学的検査は、結果が出るまでに数日から数週間かかります。その間はマスクなどを使い、咳エチケットを守りましょう。
結核の治療法(薬・注射など)と治療期間
結核の治療は、結核菌に有効な「抗結核剤」を使って行います。飲み薬に加え、一部注射で投与するものなど、複数の薬を組み合わせて投与します。一つの薬ではその薬に対抗する力を持った「耐性菌」が生まれることがあるため、複数の薬剤を組み合わせることが重要です。
結核の治療自体は入院しなくても可能ですが、患者自身の治療よりも「患者からの感染拡大を防止する」という目的のため、通常は入院が必要となります。患者の自覚症状ではなく、感染の恐れがある菌の排出状況によって入院期間が変わって来ます。そのために入院期間は数週間から数ヶ月程度。薬剤の効きが悪かったり、全身状態が悪かったりすると、1年を越えて入院が必要になる場合もあるのです。薬の投薬期間は、入院期間中を含めて6ヶ月以上必要です。
結核治療薬の注意点・副作用
抗結核薬の服用中は、薬剤の副反応を定期的に調べる必要があります。肝機能障害を起こしやすい薬剤を組み合わせるので、退院して外来通院となってからも、服薬している間は定期的に採血して肝機能を調べます。抗結核薬を服用中は原則として禁酒するようにしましょう。また、注射で投与する薬は聴力に影響するので、使用する場合は聴力検査の実施が推奨されています。

結核の検査法

結核に似た症状が出たら、誰でも不安になるものです。少し専門的な内容も含まれますが、結核が疑われた場合の検査法について解説します。
結核が疑われた場合の検査法
簡単に免疫反応を調べることができるツベルクリン。10mm以上の発赤が出たら陽性
結核にはいくつかの検査法があります。検査法は結核が疑われた場合、検査実施後、以下の時間経過で検査結果が判明します。
画像診断・顕微鏡検査→当日判明
喀痰の遺伝子検査・血液検査(施設内で実施している場合のみ)→翌日判明
ツベルクリン反応→接種48時間後判明
液体培地→培養開始、数週間後判明
小川培地→培養開始、4週間から8週間後判明
昔はまず喀痰検査し、4週間以降に「小川培地」という検査法で陽性結果が出た場合に結核と判断していました。しかしそれでは時間がかかり過ぎるので、今は小川培地より短時間で培養できる「液体培地」や結核に対する免疫記憶を調べる「血液検査」などを使って、より早い段階でより正確な結核の診断ができるようになっています。検査の内容や順序は病院の規模や設備によって異なりますが、いずれかの検査で結核が疑われた段階で、専門病院に回される場合が多いです。
画像診断・顕微鏡検査
画像診断はいわゆるレントゲン検査のこと。レントゲン写真だけでなく、胸部のCTスキャンも有効です。
咳があって喀痰が取れる場合は、取った喀痰を染色して顕微鏡で観察し、結核菌と結核の仲間の菌の有無を確認することもできます。ただし、顕微鏡で菌を確認 できても結核菌なのか、結核菌の仲間の菌なのかの区別はできません。また、喀痰中の菌量が少ないと実際は感染していても感染者とみなされない「偽陰性」となってし まいます。
喀痰の遺伝子検査
喀痰による顕微鏡検査の結果が陰性でも陽性でも、遺伝子検査を実施することもあります。検査結果は喀痰を採取してから早くても翌日以降。これによって、より結核診断の精度を高めることができます。
ツベルクリン反応
「ツベルクリン反応」は結核に対する免疫反応を調べる検査。以前は学校で児童に対して行われていましたが、現在は結核が疑われる場合や、結核患者に接触してしまった人に対して行います。
液を皮下に接種し、48時間後に接種部位に出ている発赤が直径10mm以下なら結核の心配はありません。10mm以上の発赤が出ていた場合は、結核が疑われます。
乳児期にBCGの予防接種が行われている日本では、その影響で陽性反応が出ることがあるため、陽性でもすぐには問題にはならず、他の検査が行われます。しかしBCGを実施していないアメリカでは、ツベルクリン反応の陽性は結核に感染していると判断されます。ツベルクリン反応が陽性だとアメリカへの留学や海外赴任の時に問題になり、結核を発症していなくても抗結核剤の内服を薦められる場合があります。
ツベルクリン陽性の場合は血液検査
BCG接種をしていてツベルクリン反応が陽性の場合は、BCGのせいで陽性になったのか、結核菌のせいで陽性になったのかを判別しなければなりません。これは最近実施されるようになった血液検査で区別できます。より専門的な血液検査を行うことで、結核菌に対して免疫記憶を保持しているかどうかを確認することができます。ただし、この血液検査は、結核菌を吸い込んでから直ぐには陽性とはなりません。結核菌を吸い込んでから数ヶ月しないと陽性とはなりません。
液体培地
検体を専用の液体培地に入れて培養すると結核菌や結核菌の仲間の菌がいれば数週間で陽性となります。陽性となった場合は遺伝子検査で結核菌かどうか判断します。
小川培地
昔から使われている結核菌用の培地が小川培地です。培養時間に4週間以上必要です。まれに小川培地だけ陽性の場合があるのと薬の効き目を確認する感受性用検査のための菌を入手するのに必要な培地です。
結核菌の遺伝子検査
遺伝子検査を行えば、喀痰などの検体中に結核菌や結核菌の仲間の遺伝子があるかどうかを検査することができます。喀痰の場合、顕微鏡で菌が見えなくても陽性である場合があります。結核の遺伝子検査が上に述べたように検査が数日で判明するのは、喀痰から直接遺伝子検査をして陽性となった場合です。
液体培地で陽性となった場合も遺伝子検査を実施して、結核菌がどうかを判断します。
診断確定は最速で受診翌日
結核に関する検査をすべて実施している医療機関は少ないのが現状です。各種検査を実施している医療検査を受診して、喀痰検査を実施して、顕微鏡で菌が確認できて、遺伝子検査の結果が翌日判明した場合は最速で受診翌日に診断が確定することになります。
結核の診断は総合判断
上記のように、結核の診断は、CTスキャンなどの画像診断、BCGの既往、ツベルクリン反応、培養検査(微生物学的検査)、遺伝子検査、集団感染が疑われた場合は血液検査を総合して行います。検査結果が判明するまでの時間は数日から数週間かかってしまうのが現状です。

結核(肺結核)の原因・症状

結核(肺結核)の症状
結核発症時のレントゲン写真。右肺(写真の左上)にある白っぽい曇りが結核菌による異常。
特徴的な症状は以下の3点。
咳……数週間以上続く咳
痰……血痰が出ることもある
発熱……たいてい微熱だが、時に高熱を伴う
咳が2週間以上続くと結核の可能性も考えられるため、診断時に結核の検査が含まれます。
症状が出てからさらに時間が経つと、上の呼吸器の症状に加え、以下の症状が出てきます。
疲労感……疲れやすくなる
体重減少……ダイエットをしてなくても痩せる
最近増えているのが自己流のダイエット中に結核を発症し、咳が出て疲れやすい症状を自覚しながらも「ダイエットは成功した」と思い込んでしまうケース。初期症状を見逃しやすいので、かなり進行してから病院を受診する患者の方が増えています。
結核の原因
結核の原因は、飛沫感染・空気感染する力を持つ「結核菌」。感染者の咳・くしゃみなどの飛沫や、空気中に漂う菌を吸い込むことで、呼吸器から感染します。
感染する部位は主に肺なので、一般的に「結核」というと、ほとんどが「肺結核」を指します。脊椎カリエスや結核性腹膜炎などの病気を発症することもありますが、ごく稀です。
結核の感染力・予防法
結核は空気感染するため、非常に強い感染力を持ちます。一人が結核菌に感染して咳などで菌を排出してしまった場合、同じ部屋にいる人のほとんどは結核に感染すると考えてよいでしょう。さらに結核は発症までに数ヶ月から年単位の潜伏期間があるため、結核にかかっていてもすぐに分からない場合が多いです。したがって、日常生活での感染予防は現実的には不可能です。
学校などの閉じた空間では集団感染が起きることがあります。集団感染が疑われた場合は、発症を予防するために「抗結核剤」という結核菌に効果がある薬を予防的に服薬。発症前に飲む場合は治療のための服薬と区別して「予防内服」と呼びます。服薬期間は通常6ヶ月です。
ただし、結核を発症する人は感染した人の10人に1人以下。結核菌の保持者と同じ空間にいたからといって、結核を発症するのはごく一部なのです。
免疫力が弱まっていると高まる結核発症リスク
結核の発症は、栄養状態、睡眠、ストレスなどが深く関わっています。特に「栄養状態」が悪いと発症のリスクが高くなるため、無理な自己流のダイエットで発症するケースも少なくありません。
加齢によって免疫は低下しますが、年を取ったからといって全員が発症するわけではありません。別の病気になって免疫系を落とす治療方法をした場合、結核の発症率が高まることもあります。免疫系の異常を伴う慢性疾患に対し、免疫系を落とす治療を行う時は特に注意が必要です。最近使用が開始された一部の薬剤では、数ヶ月の使用で結核症を発生リスクを増加させてしまうものもあります。
また、AIDSに感染していた場合も結核の感染・発症リスクが高くなります。特に結核や結核の仲間の菌による病気はAIDS患者の死因となることがあり危険。可能な範囲でワクチン予防をするなど注意が必要です。
結核の予防接種「BCG」は乳児に有効
結核に限らず、感染症予防にはワクチンによる予防接種が有効。結核の場合の予防接種は感染自体を予防できるものではなく、感染後の発症を予防したり、発症した場合の重症化を防ぐ目的で使われます。
結核に用いられるワクチンは「BCG」ですが、発症予防の効果については実際のところ意見が別れています。しかし、小児の結核重症化に対しては一定の効果があるという見解です。日本では2005年4月から、生後6ヶ月までの乳児に対して予防接種を実施することになっています。

肺がんの頻度と予後

わが国における、肺がんの罹患数は67,890人(2000年推定値)、死亡数は59,922人(2004年確定数)であり、それぞれ、3番目、1番目に多いがんである1),2)。死亡数は、過去20年間に2.2倍に増加し、現在も増加傾向にある。特に、男性においては死亡数で1993年に胃がんを抜いて1位を占めるようになった。
1年間の罹患率(人口10万人あたり)は、男性40歳代、50歳代、60歳代、70歳代でそれぞれ15.1、53.3、169.7、452.2、女性40歳代、50歳代、60歳代、70歳代でそれぞれ8.6、24.5、56.4、109.2であり(2000年推計値)、年齢と共に増加する
。男性は女性に比べて1.8-4.1倍罹患率が高いが、男女とも50歳以上では、1年あたりの罹患率が男性で1,876人に1人以上、女性で4,082人に1人以上となる。50歳の人が死ぬまでに肺がんに1度でも罹患する確率(累積罹患率)は男性7.8%、女性3.1%で、50歳の人が肺がんで死亡する確率(累積死亡率)は男性6.8%、女性2.7%である。
大阪府地域がん登録(1993-96年)によると3)、肺がんと診断された時点での病巣の広がりは、「限局」が18%、「領域リンパ節転移あり」が36%、「遠隔転移あり」が33%、「不明」が13%、また、各ステージでの5年相対生存率は、「限局」が57%、「領域リンパ節転移あり」が14%、「遠隔転移あり」が2%と報告されている。早期に診断されるほど、高い5年生存率が期待できる。