咳、痰などの症状がある場合、最初に胸のレントゲン検査をします。次にがんかどうか、あるいはどのタイプの肺がんかを顕微鏡で調べるため、肺から細胞を集めます。通常は痰の中の細胞検査をします。
また、ある程度進行した肺癌では血液検査でもがんの兆候が現れることがあります。一般的に腫瘍マーカーと呼ばれますが、血液検査はあくまで補助的な検査であることを肝に銘じ、血液検査のみで早合点しないようにしてください。
腫瘍マーカーが低いからといってがんがないとは決していえません。逆に軽度の高値でがんにおびえるのも良くありません。
数字で出てくる検査はX線写真やCTに比べてわかりやすいように思ってしまうものですが、決してそうではありません。その結果を解釈してくれる信頼できる主治医の解説が絶対に必要です。
1)気管支鏡検査
現在、最も信頼度が高く、比較的安全で、世界中で広く行われている検査です。気管支鏡あるいはファイバースコープと呼ばれる特殊な内視鏡を口から挿入し、喉から気管支の中を観察し、組織や細胞を採取します。この検査は通常外来または短期入院で行われます。
検査に先だって、検査による喉や気管の痛みを軽減するため、口腔の奥まで局所麻酔を行います。太さ5~6mmの気管支鏡を使って、気管支の壁から細胞をとったり、組織の一部をとり、標本をつくって顕微鏡でがん細胞があるかどうか検査します。
これを生検と呼びます。検査時間は約20~30分です。検査中は目覚めており、通常、検査後数時間以内に帰宅できます。 ただ、内視鏡を気管支の中に入れるわけですから、楽な検査ではありません。
不安な患者さん、高齢の患者さんには、短期入院(2泊3日程度)で、十分な麻酔と麻薬注射で苦痛を極力少なくして検査しています。入院の際は、血液検査、レントゲン、CT、呼吸機能など他の検査も併せて短期間に実施しています。
2)経皮吸引針生検、穿刺吸引細胞診
もし病巣まで気管支鏡が届かなかったり、採取された検体が診断に十分でない場合、局所麻酔下に肋骨の間から、細い針を肺の病巣に命中させ、腫瘍組織や細胞をとります。この場合、レントゲンで透視をしながら行います。 通常10分~15分で終了します。
危険性について少し詳しく説明します。肺はやわらかいスポンジが詰まった風船のようなものです。
それを針で突き刺しますので穴があいて空気が漏れ、肺がしぼむことがあります(気胸といいます)。たまに、漏れた空気が皮膚の下に溜まることもあります(皮下気腫といいます)。
また、肺にはたくさんの血管が通っているのでその血管に針があたって出血することがあります。胸の中への出血と気管支を通って口から出る喀血の2種類の可能性があります。その他、麻酔薬のアレルギー、胸膜を刺したときに反射で起きるショックなどが考えられます。
多いのは気胸で、程度の軽いものはたいてい起きていると思います。症状は肩のほうに抜ける感じの痛みと軽い呼吸困難です。
呼吸困難は気胸の程度によるもので、症状が強い場合は入院が必要なこともあります。普通24時間で症状は落ち着き、1週間で元通りに回復しますが、まれにチューブで漏れた空気を抜く必要があります。皮下気腫は何もしないでも回復することがほとんどです。
出血は普通大量になることはなく、数時間の安静で落ち着きますが、止血剤の点滴をして入院の必要が出てくる時もまれにあります。ただし、循環器の病気で血液が流れやすくなる薬を飲んでいる方の場合は大きな事故につながる可能性があります。
経皮肺生検に限らずどのような検査でもそうなのですが、100%確実な検査というものはありません。経皮肺生検法も診断の付く確率は100%ではありません。
レントゲンのぼんやりと映った影を見ながら針を刺すので、外れることがあります。肋骨などが邪魔になって十分な検査ができない場合もあります。
このようなときにはいくつかの方法が考えられます。同じ検査をもう一度繰り返す。全身麻酔で小さな手術をする。少しの期間を置いてCTを撮り比較する。などです。レントゲンに写った病変の性質で判断することになります。
3)CTガイド下肺針生検
あまりにも腫瘍が小さく、通常のレントゲンでは腫瘍がわかりにくい場合に、コンピューターを使ったX線写真(CT)で目標を定め、針を病巣に命中させ組織をとります。
採取した細胞を顕微鏡で検査します。 検査中に何度かCT撮影するため、30分~60分の時間がかかります。
CTガイド下針生検の場合、どうしても針を肺に刺している時間が長くなるため、透視による経皮針生検よりも、気胸、皮下気腫、出血の危険が増してきます。
4)胸膜生検
局所麻酔をして肋骨の間から特殊な器具を用いて胸膜を一部採取し、がん細胞がないかどうか検査します。肺の外側に水がたまっている(胸水)場合、同様の手法で注射針を用いて胸水をとって同様に検査します。
5)リンパ節生検
首のリンパ節がはれている場合、リンパ節に針を刺して細胞を採取したり、局所に麻酔をして外科的にリンパ節を採取することもあります。採取した細胞・組織を顕微鏡下でがん細胞がないかどうか検査します。
これらの方法を用いても診断が困難な場合、外科的に組織を採取します。外科的な方法には、胸腔鏡を用いる方法、縦隔鏡検査を用いる方法、胸を開く方法があります。
いずれも入院し、全身麻酔が必要となります。胸腔鏡を用いる方法は、胸の皮膚を小さく切開し、そこから肋骨の間を通して胸腔鏡と呼ばれる内視鏡を肺の外側(胸腔)に挿入し、肺や胸膜あるいはリンパ節の一部を採取するものです。
縦隔鏡検査は首の下端で胸骨の上のくぼみの皮膚を切開し、気管前部の組織をおしのけて空間をつくり、ここに縦隔鏡と呼ばれる筒状の器具を挿入し、直接眼で見ながら気管周囲のリンパ節や近くに位置する腫瘍組織を採取するものです。採取した組織を顕微鏡でがん細胞がないかどうか検査します。