膀胱は尿を一時的にためておく袋状の器官。膀胱がんの90%は膀胱の内側をおおっている粘膜層に発生する。
治療後の生存率が比較的高いがんだが、繰り返し発生しやすいという問題があるし、転移すると生存率は著しく低下する。このがんの治療で定評がある病院はどこなのか。
●国立がんセンター中央病院(東京都)
国立がんセンター中央病院泌尿器科は、膀胱がんの全摘手術数が年間54例(04年)で全国トップである。また、膀胱全摘術を受けた患者に対し、自然に近い形で排尿ができる尿路変向術も数多くこなし、実績を持つ。
膀胱全摘術後の尿路変向術には自然排尿型代用膀胱と回腸導管がある。前者は小腸の一部を切り取り、袋状に縫い合わせて尿をためる新しい袋(新膀胱)を作り、尿道とつなげるものだ。後者は膀胱の代わりに小腸の一部の回腸を尿路として用い腹壁まで尿を誘導、腹壁に採尿具を装着して尿を出す再建手術である。
「尿道にがんが再発する危険が少ない患者さんで、ご本人が希望される場合には自然排尿型代用膀胱を作ります。全摘と同時に行う手術で6時間くらいかかります」(藤元博行医長)
自然排尿型代用膀胱は見た目もよく、患者の満足度は高いようだという。自然排尿型代用膀胱ができない場合には尿道も摘除し、回腸導管を行う。これも全摘と同時に取り組み、5、6時間かかる手術だ。
●新潟県立がんセンター新潟病院(新潟県)
新潟県立がんセンター新潟病院泌尿器科は、膀胱がんの年間の新規患者数が85人でトップクラス。その70~80%はがんが膀胱内の粘膜やその下の粘膜下層にとどまる表在性の膀胱がんだ。
この表在性の膀胱がんには内視鏡を用いた経尿道的切除を行う。尿道から細長い電気メスを膀胱内に挿入して、がんを削り取る手術である。手術時間は1時間程度。入院期間は3、4日。同科はこの経尿道的切除を年間209件(04年)実施し、この切除数でもトップクラスだ。
「表在性の膀胱がんは膀胱内の新たな部位に再発しやすいので、内視鏡手術を繰り返すこともあります。また、再発予防のために、手術後、膀胱内に結核の予防接種で使われるBCGや抗がん剤を注入することもあります」(小松原秀一臨床部長)
膀胱壁の深部、壁外、リンパ節などに進行した場合は開腹手術を行う。また、進行したり転移して手術ができない場合には抗がん剤治療を行う。「4種類の抗がん剤を併用するMVAC療法(エムバック)などを行います」と小松原臨床部長。
●筑波大学病院 泌尿器科(茨城県)
筑波大学病院泌尿器科は、患者のQOL(生活の質)の保持に重点を置き、筋層にがんが入り込んだ浸潤性膀胱がんを対象に、膀胱を温存する放射線化学療法で先駆的な役割を果たす。
「膀胱を温存する放射線化学療法は、90年から現在まで52例に実施しています。再発の恐れが少ない患者に対して行ってきました。この治療で膀胱を温存した患者の5年生存率は76%です。5年無再発生存率は65%です。いずれも膀胱全摘術による5年生存率や5年無再発生存率よりも優れています」(赤座英之教授) 膀胱を温存する放射線化学療法は最初に内視鏡手術でがんを切除し、その後、放射線治療と抗がん剤治療を併用する。放射線は週5回ずつ8週間、同時に2種類の抗がん剤を3週間ごとに3回、局所動注する。
米国で発表されたデータでも、浸潤性膀胱がんに対する放射線化学療法は手術に近い成績が得られているという。
「近い将来、膀胱を温存する放射線化学療法は手術と同等の治療法になる可能性があります」(赤座教授)
■病院名・診療科・医師名・電話・治療方針・特徴
●札幌医科大学病院 泌尿器科 塚本泰司教授(北海道) (電話)011・611・2111
標準的な治療法を提示し、膀胱がんの進行度、患者の希望に応じて治療方法を決定する。
自然排尿型の尿路再建も数多く手がける
●自治医科大学付属病院 泌尿器科 森田辰男教授(栃木県) (電話)0285・44・2111
膀胱がんの手術は年間120例、膀胱鏡検査は年間1000例を超える。
病期に応じた標準的治療を提供。新規抗がん剤の化学療法も行う
●筑波大学病院 泌尿器科 赤座英之教授(茨城県) (電話)029・853・3571
浸潤性膀胱がんに対して膀胱を温存する放射線化学療法で先駆的な役割を果たす。
他科との連携によるチーム医療を大切にしている
●国立がんセンター中央病院 泌尿器科 藤元博行医長(東京都)(電話)03・3542・2511
年間(04年)の膀胱全摘手術数54例で全国一。的確な判断と高い技術力を持ち、
取りこぼしをなくし、生存率の向上を目指す
●東京医科大学病院 泌尿器科 橘政昭教授(東京都) (電話)03・3342・6111
浸潤性の膀胱がんには膀胱全摘術を適応せざるを得ないが、自然排尿型尿路変更術や
勃起神経温存による機能温存手術を心掛けている
●新潟県立がんセンター新潟病院 泌尿器科 小松原秀一臨床部長(新潟県)
(電話)025・266・5111
年間新規患者数は85人とトップクラス。内視鏡手術と膀胱摘除手術、抗がん剤治療を
要する進行がんに的確な治療方針を提示できる
●小牧市民病院 泌尿器科 松浦治部長(愛知県) (電話)0568・76・4131
膀胱外に浸潤した場合も動注併用の全摘手術で完治を目指す。排尿効率のよい新しい
型の代用膀胱を造設し、術後のQOLを向上
●大阪府立成人病センター 泌尿器科 宇佐美道之部長(大阪府) (電話)06・6972・1181
昨年の膀胱全摘術数26例。自然排尿型尿路変向や男性機能温存等、QOL保持にも
重点を置き、放射線化学療法での膀胱温存にも対応
●日本赤十字社和歌山医療センター 第1泌尿器科 林正部長(和歌山県)
(電話)073・422・4171
05年の膀胱全摘術数は28例。うち80代が3例、90代が2例。
短時間(平均3時間37分)で安全な手術を行っている
●原三信病院 泌尿器科 山口秋人副院長(福岡県)(電話)092・291・3434
泌尿器科常勤医12人。膀胱がん新患は過去26年で1201人の実績。
年間(05年)の膀胱全摘術は16例、内視鏡手術は244例