腎臓は、腰のすぐ上の高さの背骨の両側に1個ずつある。
腎臓がんはある程度大きくならないと自覚症状がほとんど表れず、早期発見の機会を失いやすい。治療の選択肢が広がり、腎臓を残す手術も行われるようになっているが、腎臓がんの治療で定評がある病院は?。
●関西医大病院(大阪府)
関西医科大学病院の泌尿器科は、日本で最も早く腎臓がんに腹腔鏡手術を導入した
病院の一つとして知られる。92年からこれまでの腹腔鏡手術実績は150例以上に上り、
全国有数だ。
通常の腎臓がんの開放手術では、腹部を15~20センチと肋骨(ろっこつ)の一部を
切開するなど、身体への負担が大きい。しかし、腹腔鏡手術は腹に小さな穴を開け、
内視鏡や超音波メスなどを挿入して、モニターの画面を見ながら行う。開放手術に比べて、
身体への負担が軽く、術後の痛みが少なく、入院期間も短いなどのメリットがある。
「腹腔鏡下の根治的腎摘除術はこれまで120例以上行っていますが、大きな合併症は
経験していません。また、ほとんどの患者さんが、開放手術に移行することなく、
腹腔鏡手術を終えています」と松田公志教授。
一般的にがんの直径が4センチ以下の小さな腎臓がんでは、腎臓の一部を温存する
腎温存手術が行われる。この場合も通常は腹を切開する開放手術が行われる。
しかし、同科では99年から、腹腔鏡手術の熟練医が、腹腔鏡下での手術を始めた。
「すでに30例以上に行っています」(松田教授)
●東京医科歯科大病院(東京都)
東京医科歯科大学病院の泌尿器科は、98年にミニマム創内視鏡下手術を開発し、
これまでに200例以上の腎臓がんに行っている。ミニマム創内視鏡下手術とは、
腹を大きく切開する開放手術と腹腔鏡手術のそれぞれの長所を生かし、短所の
克服を目指して開発されたものだ。
「この手術は腎臓を取り出すための5センチ前後の小さな1つの傷で行います。
この“傷”から内視鏡を使いますが、モニター画面だけでなく、直接体の中も見えるため、
全体を見ながら安全に行うことができます。腎臓がんの進み具合や出血などの
緊急事態にも、傷のサイズを大きくすることですぐに対応でき安全です」(木原和徳教授)
手術時間は2、3時間。輸血はまずしない(1%程度)。翌日には十分な歩行ができ、
食事もできる。この手術の対象患者や手術代は、開放手術とほぼ同じ。術後の5年生存率も
開放手術、腹腔鏡手術と同じだ。
「2000年からは腎温存手術もミニマム創内視鏡下手術で行っています。200例のうち
約30例に行い、良好な治療成績です」と木原教授。
●東京女子医大東医療センター(東京都)
東京女子医科大学東医療センター泌尿器科は、腎臓がんの年間手術数40例以上で
全国有数だ。
「がんの直径が10センチ未満なら腹腔鏡手術、4センチ未満なら腎温存手術が可能です。
開放手術ならがんの大きさに関係なく行えます。患者さんと相談し、治療法を選択します」と
中澤速和助教授。
これらの手術では腎動脈や腎静脈を遮断しながら行う血流遮断法、がんの周囲を
マイクロ波凝固装置などで凝固させて行う無阻血法、臓器を氷で冷やす冷却法などを
用いて、安全に行う。局所に限局した腎臓がん(がんが被膜を超えず直径4センチ以下)
なら術後の5年生存率は98%、手術例全体でも78%ほどと好成績だ。
ただし、腎臓がん患者の6人に1人は転移がある。この場合にはインターフェロンによる
免疫療法を行う。2~4週間に1回ペースで外来通院。自宅で週3回、自己注射を続ける。
「肺転移だけの場合は約40%に有効です。大きな副作用もないようです。肺以外の転移を
含む場合など、全体の奏効率(がんが消失または縮小)は22%ほどです。生存期間も
延びています」(中澤助教授)
●病院名・診療科・医師名・電話・治療方針・特徴
●札幌医科大学病院 泌尿器科
塚本泰司教授 (電話)011・611・2111(北海道)
病状やクオリティーオブライフを考慮し、開放手術(腹膜外到達法による)や
腹腔鏡手術(腎部分切除を含む)を積極的に行う
●東京女子医科大学東医療センター 泌尿器科
中澤速和助教授 (電話)03・3810・1111(東京都)
腹腔鏡手術にも積極的。中澤助教授の腹腔鏡手術の延べ数は150例を超え全国有数。
転移症例にはインターフェロンで良好な成績
●東京医科歯科大学病院 泌尿器科
木原和徳教授 (電話)03・3813・6111(東京都)
腎臓がんに対して開放・腹腔鏡手術を中心とした各種の治療を実施。10~20年以上の
長期にわたる経過観察を重視している
●仙台社会保険病院 泌尿器科
庵谷尚正主任部長 (電話)022・275・3111(宮城県)
開放手術と腹腔鏡手術の短所を克服したミニマム創内視鏡下手術を開発。
200例以上の実績。全国への普及活動に積極的に取り組む
●新潟県立がんセンター新潟病院 泌尿器科
北村康男部長 (電話)025・266・5111(新潟県)
年40~70例の腎細胞がん、年10~20例の腎盂がんの手術。看護師、手術部スタッフの
協力で標準治療を踏まえた安全・確実な手術を提供
●名古屋大学医学部付属病院 泌尿器科
小野佳成助教授 (電話)052・741・2111(愛知県)
日本で最初に腎臓がんに対する腹腔鏡手術を行い、現在までに400例以上の
手術実績がある。開放手術と同等の治療成績を挙げている
●大阪府立成人病センター 泌尿器科
宇佐美道之部長 (電話)06・6972・1181(大阪府)
04年の手術数51例。早期には腎機能温存及び低侵襲性腹腔鏡下手術、進行例では
拡大根治的手術を含めた集学的治療で成績向上に努力
●関西医科大学付属滝井病院 泌尿器科
松田公志教授 (電話)06・6992・1001(大阪府)
より侵襲の小さな治療を目指す。比較的大きな腎臓がんには腹腔鏡下根治的腎摘除術、
4センチ以下には腹腔鏡下腎部分切除術を行う
●愛媛県立中央病院 泌尿器科
菅政治部長 (電話)089・947・1111(愛媛県)
腹腔鏡手術に積極的に取り組む。腎尿管がんに対する年間の腹腔鏡手術数は45例。
腎部分切除などで腎機能の温存も図る
●九州大学病院 泌尿器科
内藤誠二教授 (電話)092・642・5615外来(福岡県)
腹腔鏡下根治的腎摘除術や腎機能を温存する腎部分切除術で実績。進行がんには
インターフェロンと樹状細胞併用療法を開発、実施中