腎不全を治す特効薬はありません。目標は慢性腎不全の進行を遅らせる事と、合併症を予防する点にあります。
降圧薬
慢性腎不全になると高血圧となることが多くなります。先に述べたように高血圧は、腎不全進行の最も重要な増悪因子であるとともに、生命にかかわる合併症の原因にもなります。このため、慢性腎不全の薬物療法の中で最も重要なものと考えられています。
最近は多くの有効な薬剤が開発され、血圧をコントロールするのも楽になっています。特にアンジオテンシン変換酵素阻害薬と、アンジオテンシン受容体拮抗薬は血圧を下げるだけでなく、腎機能を保護する作用も優れています。
利尿薬
むくみ(浮腫)のある場合や、血圧が高いにもかかわらず塩分制限の守れない場合には利尿薬が必要となります。しかし、不用意に利尿薬を飲むとかえって腎機能を悪くすることがあります。
クレメジン
経口吸着炭薬クレメジンは、特殊な活性炭を薬にしたものです。腸の中でいろいろな物質を吸着します。腎不全が進行して現れる症状を尿毒症といいますが、腎不全の患者さんの体には腎臓に負担となるような尿毒症毒素が蓄積します。クレメジンは尿毒症毒素を吸着し、腎機能の低下を抑える働きがあります。
この薬はカプセルと細粒の二つの剤型があります。カプセルの場合には、1日30カプセルという大量を服用しなければなりません。なお、毒素だけでなく同時に服用した他の薬も吸着する可能性があるので、食事や他の薬を服用してから少なくとも30分以上時間をずらして服用する必要があります。通常、食間に服用することになります。
活性型ビタミンD
腎臓の働きの項で述べたように、腎不全になると活性型ビタミンDの産生が低下し、骨がもろくなることがあります。このため活性型ビタミンD製剤(アルファロール、ロカルトロールなど)が投与されます。
しかし使い方が難しく、多すぎるとカルシウムの吸収が過剰となり、高カルシウム血症をきたすことがあります。高カルシウム血症は、腎機能を低下させる副作用があるため、十分注意しながら服用する必要があります。
リン吸着薬
腎機能が低下するとリンの排泄も低下し、高リン血症となると、低カルシウム血症、副甲状腺ホルモンの過剰分泌(副甲状腺機能亢進症)をきたします。これを予防するためにはリンの摂取制限が必要となります。
そこで、食物中のリンを結合し吸収されないようにするリン吸着薬(カルタンなど)が投与される場合があります。一般には炭酸カルシウムが用いられます。食事中のリンと胃の中で結合するするため、食中あるいは食後すぐに服用しないと十分効果が得られません。気を付けなければならないのは、活性型ビタミンD製剤と炭酸カルシウムの併用です。これは理にかなった治療法ですが、高カルシウム血症の危険があり、十分注意する必要があります。
カリウム吸着薬
腎臓からのカリウムの排泄が低下することにより、高カリウム血症をきたします。高カリウム血症は不整脈をきたし、突然死の原因となることがあります。このため、食事療法の項で述べたような注意が必要ですが、どうしてもカリウム値が5.5mEq/L以上となる場合には、カリウムを腸の中で吸着し、便に排泄する薬が必要となります。カリウム吸着薬(ケイキサレート、カリメート)は便秘などの副作用があり、これを予防するためにソルビトールなどの粉薬を併用することがあります。ゼリー状の薬(アーガメイトゼリー)には、カリウムを吸着する成分と便秘を予防する成分が含まれています。
エリスロポエチン製剤
程度の差はあれ、ほとんどの腎不全の患者さんは貧血になります。
腎臓は造血ホルモン(エリスロポエチン)を産生しています。エリスロポエチンが骨髄に赤血球を作るように指令を出しているのです。エリスロポエチンが欠乏すると骨髄での赤血球の産生(造血)が低下し、貧血になるわけです。貧血の状態が長く続くと、心臓に負担となり、心不全の原因となります。
このエリスロポエチンが遺伝子工学の発達により薬として使えるようになりました(エポジン、エスポー、ネスプ)。一般にはヘマトクリット値が30%以下(正常値;40-45%)に低下した場合に使用します。しかし、エリスロポエチンは注射薬で、1~2週間毎に注射する必要があります。
日常生活では貧血と言うと頭がフラツとするような脳貧血のことを思い浮かべますが、これとはまったく違います。医学的には身体中に酸素を運ぶ赤血球が少なくなることを貧血と呼びます。
重炭酸ナトリウム
人間の体は弱アルカリ(pH7.4)に保たれています。腎臓の働きが落ちてくると、アルカリ性を保持する重炭酸の濃度が低下します。このため身体が酸性に傾きます。医学的に言うと、アシドーシスという状態になります。アシドーシスになると、骨がもろくなったり、栄養状態が悪くなったり、様々な悪影響を及ぼします。またアシド-シスが腎機能を低下させるとの報告もあります。これを防ぐためにアルカリ化剤として重炭酸ナトリウム(重曹)を1日1-3g服用します。
ステロイド・免疫抑制剤
慢性糸球体腎炎で慢性腎不全となった患者さんの多くはステロイドや免疫抑制剤は無効です。ネフロ-ゼ症候群を合併している場合でも効果の期待できないことが多く、副作用の面からいつまでも使用すべき薬剤では有りません。腎不全だけでも免疫能が低下しやすいので、これらの薬でさらに免疫能が低下すると、抵抗力が非常に弱くなります。
漢方薬
現時点で有効性が確認されている漢方薬は無いと考えて頂いて良いと思います。かえって、変な漢方薬による副作用が懸念されます。