肺がんの遺伝と家族性腫瘍

一部のがんでは遺伝的な素因をもとに発症することが明らかになっており、このような腫瘍を「家族性腫瘍」と総称しています。
 この中には(1)1つの遺伝子の変異が原因で発症する単一遺伝子性疾患としての家族性腫瘍症候群と、(2)遺伝子が作るタンパク質の機能に微妙な違いをもたらす遺伝子の変化や複数の遺伝子の変化の相互作用に、環境の要因が影響する多因子性がん素因の2つがあります。
 上記(1)の家族性腫瘍症候群については、診断や治療の面で多くの知見が集積され、臨床の現場に応用されつつあります。一般的に家族性腫瘍症候群の特徴として「若くしてがんに罹患した方がいる」「家系内に何回もがんに罹患した方がいる」「家系内に特定のがんが多く発生している」などがあり、このような家系の方はがんに罹患しやすい体質を持っている可能性があります。
 しかし、血縁者にがんに罹患した方が複数いることだけではご自身ががんに罹患しやすいか否かを判断することはできません。一般に家族性腫瘍の確定診断は遺伝子の検査により行います。
 上記(1)では遺伝性大腸がん(FAPやHNPCC)や家族性乳がん・卵巣がんなど多くの疾患で遺伝子診断を行うことが可能です。一方、(2)の多因子性がん素因については未だ臨床応用されている対象疾患はほとんどありませんが、将来は予防医学の観点から活用される可能性があります。
 例えば同じように喫煙していても肺がんに罹患する人と罹患しない人がいます。これは1つの説明として、喫煙の際に生じる有害物質を代謝する酵素に関する遺伝子の個人差が指摘されています。
 がんは誰もが罹患する可能性のある疾患です。あるがんの発症が遺伝的な要因によるものかどうかを診断することは現在ではまだ難しく、がんの遺伝として一般に取り扱われているのは主に上記(1)の家族性腫瘍症候群です。
 がんの遺伝カウンセリングの現場では、個々の症例に応じて、がんの遺伝に関する情報の提供、遺伝子診断や対策のプランニングなどを扱っています。
 現時点では、臨床に有用な遺伝子に関する情報や遺伝子診断の適応となる疾患はごく限られていますが、治療やがん検診の方法がほぼ確立した疾患もあります。がんに罹患しやすい体質を受け継いでいたとしても、適切な健康管理により治療成績の向上が期待できる可能性があります。