胃がんの各種治療法とその特徴

胃がんに対する治療法にはいくつかあります。手術療法が一般的ですが、抗がん剤を用いた薬物療法もあります。放射線療法は、特殊な場合には行われていますが、がんに対する治療法としては一般的ではありません。
【手術療法】
手術は胃がんに対して最も標準的な治療法で、がん細胞をすべて取り除くことで治癒を目指します。簡単に言えば、がん細胞のすべてが身体から取り除かれれば、それはすなわち、がんが治ったということになります。ただ、この場合の「すべて」とは、目に見えない細胞のひとつひとつも含めてということです。しかし、手術はあくまで肉眼で見えるものを切除する局所療法ですから、がんがその局所にとどまっていれば最も確実な治療法になりますが、目に見えないレベルでがん細胞がその局所を越えて広がっている場合には、がんをすべて取り除くことはできません。再発が必至ということになります。その場合は再発の状況により再度手術を考慮したり、切除が困難であれば抗がん剤治療や放射線治療が行われます。
  1) 内視鏡的粘膜切除術
一部の早期がんに対して、内視鏡を使ってがんを切除することが行われています。ただし、リンパ節はまったくの手つかずになるため、リンパ節転移の可能性がある人に対しては行えません。胃がんに対する内視鏡的治療には、スネアという金属製のワイヤーを用いるEMR(内視鏡的粘膜切除術:Endoscopic mucosal resection)とESD(内視鏡的粘膜下層剥離術:Endoscopic submucosal dissection)があります。EMRには1)2 channel 法(ストリップバイオプシー法)、2)Cap 法 (先端フード法)があります。後者には、1)ITナイフ切除法、2)先端系といわれるFlushknife、Hookknife、needleknifeなどを用いる方法に2大別されます。
内視鏡的治療の適応は、リンパ節転移の可能性がないことが原則であり、「胃癌治療ガイドライン」上、組織学的には、適応内病変は分化型で2cm以下の粘膜内癌。肉眼型は問わないが、陥凹型では潰瘍を認めないもの、とされています。適応拡大病変に関しては、慎重な術前診断、検討会での検討に基づき、完全一括切除が可能と判断されるものに関しては、治療を行っております。最近では治療器具や内視鏡手技の向上により、大きな病変でも適応を選べば、一括切除できるようになってきました。
  2) 開腹手術
一般的には、みぞおちから臍横まで約20㎝、縦に切開し、胃と周囲のリンパ節を併せて取ってくる手術です。お腹の中を十分に観察でき、あらゆる状況にも対応でき、手術操作が確実にできることから、今でも胃がん治療の重要な手技のひとつです。胃の切除方法には大きく分けて3通りあります。胃の出口(幽門)側を切除する幽門側胃切除、胃を全部切除する胃全摘、胃の入口(噴門)側を切除する噴門側胃切除です。これらは、がんが胃のどこにどれだけの範囲で存在するかやその進行度によって決定します。また同様に胃がんの範囲や進行度によってリンパ節郭清(リンパ節をきれいに取り除くこと)の範囲も変わります。ある程度進行した胃がんに対しては、胃から少し離れたリンパ節まで郭清するD2郭清を行い、早期胃がんの場合にはこれよりも更にリンパ節郭清の範囲を縮小します。高度進行胃がんの場合に薬物療法と組み合わせた更に広い範囲の拡大リンパ節郭清が行われることもあります。
   3) 腹腔鏡下手術
腹腔鏡下の胃がん手術は1990年代にわが国で初めて行われました。腹部に5mm~12mmの穴を数か所開けて、専用のカメラや手術器具を挿入し、モニター画面で腹腔内を観察しながら、器具を操作して胃の切除を行う方法です。腹腔鏡下手術のメリットは、一般的には、傷が小さく手術後の疼痛が少ない、術後呼吸機能の低下が少ない、回復が早いため早期に退院できる、より鮮明に拡大した画像で血管などを確認できる、などが挙げられます。
腹腔鏡下胃局所切除術
腹腔鏡下で胃の局所切除を行います。胃局所切除術では、胃周囲のリンパ節の郭清を行いませんので、リンパ節転移のリスクが極めて低いタイプの腫瘍(胃粘膜下腫瘍など)に限定して行われています。
腹腔鏡下胃切除術
最近では、早期胃がんだけでなく進行胃がんに対しても、腹腔鏡下にリンパ節郭清を伴う胃切除術が行われています。当院では胃がん治療ガイドラインに準じて、Stage Iの胃がんに適応を限定して行っています。
胃は食べたり飲んだりした物を一時的に蓄えておくところです。胃がんに対して手術を受けると、胃が小さくなったり無くなったりしてしまいます。消化や吸収に大きな変化はありませんが、一度にたくさん食べられなくなりますので、1日の食事の回数を増やすなどの工夫が必要になってきます。また、食べたものが早期に腸へ流れ込むことによる症状(下痢、腹痛、冷汗、立ちくらみ等:ダンピング症状といいます)が出たりする場合があります。ゆっくり時間をかけ、よく噛んで食べるようにする必要があります。
※術後補助化学療法について
これまで、胃がんの治癒切除(目に見えるレベルではすべて胃がんを切除できた)後に再発予防に薬物療法を行うこと(これを「補助化学療法」といいます)の有効性をしっかりと示した研究はありませんでしたが、最近、胃がんの治癒切除後にある種の抗癌剤を一定期間内服することにより、再発を予防する効果のあることが示されました。現在では、ステージIIとIII(ただし早期胃がんを除く)の胃がん治癒切除後には、ティーエスワンという抗癌剤を1年間内服することが、我が国における標準治療と考えられています。
【薬物療法】
化学療法は抗がん剤を使用する目的によって、(1)手術で取りきれずに残ってしまった少量のがん細胞を死滅させて再発を予防する(これを術後補助化学療法と言います)、(2)がんに伴う苦痛を改善したり予後を延長させる目的で使用する、の2つに分類されます。
(1)の術後補助化学療法は、手術で完全にとりきれなかったがん細胞を死滅させることで、手術単独では治らない患者さんを治す治療です。 一方、この治療は手術で治ってしまう患者さんにまで抗がん剤を投与することが問題です。使用する抗がん剤の効果と副作用を検討した結果、ティーエスワンの1年間の投与が有効であることが知られています。(2)の目的で用いられる主な抗がん剤は5-フルオロウラシル、シスプラチン、イリノテカン、タキサン系薬剤(パクリタキセルとドセタキセル)です。最初に行うべき治療は5-フルオロウラシル系薬剤であるティーエスワンとシスプラチンを組み合わせた治療法です。この他にも、ティーエスワンにタキサン系薬剤を組み合わせた治療法も期待されていますが、現在までに有効性の証明はされていません。この他、ティーエスワンとシスプラチンにタキサン系薬剤であるドセタキセルを組み合わせた3剤併用療法も検討されていますが、その効果や安全性の十分なデータはありません。
最近の研究で、胃がんの約20%にHER2(ハーツウ)という細胞増殖にかかわるたんぱく質が多く発現していることが分かりました。2009年の米国臨床腫瘍学会において、HER2を多く発現している胃がんにHER2の働きを抑える分子標的治療薬(トラスツズマブ)を併用すると、予後の改善することが報告されました。この薬剤は乳がんの治療薬として使われていますが、近い将来、胃がんにおける治療薬になると期待されています。
また、手術成績向上のため、手術可能な患者さんに対する術前化学療法の研究も進んでいます。高度リンパ節転移症例に対するティーエスワンとシスプラチンによる術前化学療法は、術前化学療法なしに比べて優れている可能性が高いことが示されています。現在、高度リンパ節転移を伴う症例に対して、術前化学療法がおこなわれるようになってきています。
【放射線療法】
放射線は、胃がんに対する効果が弱いうえに正常な大腸や小腸を損傷しやすいため、通常は胃がんに対して放射線を照射することはありません。しかし、脳や骨やリンパ節などに転移が起きたときに、その転移部位に放射線をかけることがあります。

胃がんの名医

胃がんの病院ランキング
  医療機関名         胃がん手術数   内視鏡治療  手術なし   所在地
1 癌研有明病院           296       185     194  東京都江東区
2 国立がん研究センター中央病院   199       207     251  東京都中央区
3 静岡県立静岡がんセンター     183       196     378  静岡県駿東郡
4 国立がん研究センター東病院    132       110     151  千葉県柏市
5 恵祐会札幌病院          118       79      32  北海道札幌市
6 山形県立中央病院         104       73      74  山形県山形市
7 千葉県がんセンター        102       53      32  千葉県千葉市
8 自治医科大学附属病院       99        64      90  栃木県下野市
8 広島市立広島市民病院       99        63      75  広島県広島市
10 四国がんセンター         95       51      123  愛媛県松山市
11 岩手県立中央病院         91       29      53  岩手県盛岡市
11 北里大学東病院         91        115     117  神奈川県相模原市
11 大阪市立総合医療センター    91        50      57  大阪府大阪市
14 東京女子医科大学病院      90        36      73  東京都新宿区
14 新潟県立がんセンター新潟病院  90        45      206  新潟県新潟市
16 大垣市民病院          88        26      121  岐阜県大垣市
17 仙台厚生病院          87        110      80  宮城県仙台市
18 倉敷中央病院          86        52      165  岡山県倉敷市
18 岡山済生会総合病院       86        46      74  岡山県岡山市
20 兵庫県立がんセンター      85        62      151  兵庫県明石市
21 虎の門病院           84        104     118  東京都港区
21 神奈川県立がんセンター     84        66      120  神奈川県横浜市
23 富山県立中央病院        82        75      79  富山県富山市
24 済生会熊本病院         81        70      73  熊本県熊本市
25 東京慈恵会医科大学附属病院   80        47      40  東京都港区
25 静岡県立総合病院        80        54      92  静岡県静岡市
27 埼玉医科大学国際医療センター  79        80      39  埼玉県日高市
28 大阪市立大学医学部附属病院   78        86      26  大阪府大阪市
28 福井県立病院          78        44      93  福井県福井市
28 新潟県立新発田病院       78        57      35  新潟県新発田市
31 順天堂大学医学部附属順天堂病院 77        54      87  東京都文京区
31 愛知県がんセンター中央病院   77        44      152  愛知県名古屋市
31 高知医療センター        77        28      22  高知県高知市
34 獨協医科大学病院        75        31      45  栃木県下都賀郡
34 大阪府済生会中津病院      75        90      38  大阪府大阪市
34 新潟市民病院          75        102      83  新潟県新潟市
37 横浜市立大学附属市民総合医療センター 74     90      51  神奈川県横浜市
37 大阪赤十字病院         74        70      120  大阪府大阪市
37 札幌厚生病院          74        68      67  北海道札幌市
40 長岡中央総合病院        73        81      110  新潟県長岡市
40 都立駒込病院          73        67      180  東京都文京区
42 岐阜大学医学部附属病院     72        49      35  岐阜県岐阜市
42 和歌山県立医科大学附属病院   72        82      25  和歌山県和歌山市
42 日立総合病院          72        26      65  茨城県日立市
42 大阪府立成人病センター     72        131     119  大阪府大阪市
42 北九州市立医療センター     72        49      -  福岡県北九州市
47 関西医科大学附属枚方病院    71        66      87  大阪府枚方市
47 久留米大学病院         71        31      38  福岡県久留米市
47 九州大学病院          71        51      81  福岡県福岡市
47 大阪医療センター        71        30      67  大阪府大阪市

肺がん治療・手術の最高の名医

氏名(敬称略)病院名
呉屋朝幸 杏林大学病院
外科教授 1974年鹿児島大学医学部卒。国立がんセンター等を経て現職。
「患者に最大の利益を還元する」をモットーに治療に取組んでいます。近い将来肺がん外科分野の中心になる人物と評されています。
土屋了介 国立がんセンター中央病院
副院長 1970年慶應義塾大学医学部卒。防衛医科大学校等を経て現職。
肺がんの手術件数で日本一の症例数を誇る国立がんセンター中央病院の中心的人物です。人当たりのよさに定評があり、話しやすい良い先生と評判です。
西脇裕 国立がんセンター東病院
臨床検査部長 1971年京都大学医学部卒。国立療養所松戸病院勤務等を経て現職。
肺がんの化学療法の治療にいち早く取組み、着実に研鑽を重ねてきたドクターです。肺がん治療の分野において、国立がんセンター東病院の中心人物の一人です。
淺村尚生 国立がんセンター中央病院
呼吸器外科医長 1983年慶應義塾大学医学部卒。米国留学等を経て1999年より現職。
年間700件の肺がん手術を三人の医師で行っている同病院の中でも、中心的な役割を果たしているドクターで、外科医としてトップレベルの技術を持っています。
一瀬幸人 国立病院機構九州がんセンター
呼吸器科部長 1978年長崎大学医学部卒。テキサス大学MDアンダーソン病院等を経て現職。
患者とのスキンシップを大切にしており、実際の肺がん診療の際には患者に直に接し、スキンシップをはかる診療を心がけています。
岡田守人 兵庫県立成人病センター
呼吸器外科長 1995年神戸大学大学院医学研究科修了。2002年より現職。
肺機能温存術式である難易度の高い気管支形成術や血管形成術によって、出来る限り肺摘除を回避する治療を行っています。
川原克信 大分大学医学部附属病院
腫瘍病態制御講座外科第二教授 1971年長崎大学医学部卒。福岡大学第二外科助教授を経て現職。
肺がん、食道がんの外科的治療を専門としており、腹腔鏡を用いた手術を積極的に取り入れ、低侵襲で根治的な縮小手術を行うことを目指しています。
佐々木康綱 埼玉医科大学病院
臨床腫瘍科教授 1980年昭和大学医学部卒。国立がんセンター病院等を経て現職。
大学病院としてはまだ珍しい腫瘍内科(臨床腫瘍科)があり、また専門病院とは違って様々な合併症を有する肺がん患者に対する治療が可能です。
中川健 癌研究会癌研有明病院
副院長 呼吸器外科部長 1966年東京大学医学部医学科卒。結核予防会結核研究所附属療養所等を経て現職。
治療する科の主体性で治療方針が決まるのではなく、「キャンサーボード」と呼ばれる臓器別診療グループで患者の病状を詳細に検討し、最適な治療を提供しています。