咽頭がんに強い病院ベスト10

咽頭は鼻の奥から食道に至るまでの食物や空気の通り道で、上・中・下の3部位に分けられる。下咽頭がんは、酒好き・たばこ好きの男性に多く、頭頚部のがんの中でも最も治りにくいがんの一つだ。このがんの治療で定評のある病院は?
癌研有明病院(東京都)
 癌研有明病院の頭頚科は、世界トップクラスのマイクロサージャリーによる再建手術を生かした下咽頭がん手術で実績を持つ。マイクロサージャリーとは肉眼ではなく、顕微鏡をのぞきながら行う微小外科手術のことだ。
「下咽頭の進行がんでは、咽頭と喉頭、食道を切除します。この場合、主に空腸を使って食道を再建し、同時に声を出すための音声再建手術もします。また、がんが小さい場合には喉頭の一部を残す喉頭温存手術を行います。この場合も同様の音声再建手術などを行います。再建手術は血管を上手につなぐなどの高度な技術が求められます。
この再建手術にマイクロサージャリーの実績が役立っています」と川端一嘉部長。
 下咽頭がんの年間手術数は40~60例で、そのうち約10%に喉頭温存手術を行っている。
 同科での術後5年生存率は喉頭全摘手術が43~44%、喉頭温存手術は68~80%ほどでいずれも好成績だ。
「温存手術で切除範囲を小さくしても、5年生存率は下がらないことがわかってきました。切除範囲が少なければ、術後に起こりやすい誤嚥(食べた物が食道ではなく気道に入る)などを軽減することもできます」(川端部長)
大阪府立成人病センター(大阪府)
 大阪府立成人病センターの耳鼻咽喉科は、下咽頭がんの年間患者数45~50例で全国トップクラスだ。特に「食べる」「声を出す」などさまざまな機能を温存することに積極的に取り組んでいる。
「早期がんには放射線治療か喉頭温存手術のいずれかを選択して、喉頭の機能の温存を図っています。放射線治療による機能温存率はT1(がんが下咽頭のある部分に限られ、最大径2センチ以下)なら約68%、T2(最大径2センチを超え4センチ以下)では約61%です」と吉野邦俊部長。
 放射線治療による機能温存率では全国有数の好成績だ。また、喉頭の一部を温存する
 喉頭温存手術(T1、T2対象)でも機能温存率は約70%と高い治療成績を誇る。
 下咽頭がんは進行した状態で見つかることが多く、声帯を含む喉頭も手術で取らなければならない場合がほとんどだ。しかし、同病院では喉頭温存手術の適応の拡大も検討中である。
「下咽頭がんで再発した場合などにも、可能なら喉頭温存手術を行っています。治療後のリハビリにも力を入れています」(吉野部長)
北海道大学病院(北海道)
 北海道大学病院耳鼻咽喉科では、「超選択的動注化学療法」と呼ばれる最新治療法で、進行した下咽頭がんの治療に取り組んでいる。
「この治療法は90年代初めに米国で開発されたものです。当科では99年からこれまでに24例の下咽頭がん(頭頚部がん全体では120例以上)に実施し、奏効率は100%と好成績です」と福田諭教授。
 細い管(カテーテル)を太ももの付け根の動脈から挿入し、下咽頭がんに栄養を送る細い動脈まで運び、抗がん剤を大量に注入してがんのみに集中的に作用させる。
 同時に抗がん剤を中和する薬を鎖骨下の静脈に注射する。がんをたたいてから
 静脈に流れてきた抗がん剤の作用を減らして、全身への副作用を抑えるという治療法である。
 治療期間は約7週間。抗がん剤は週1回、合計3、4回実施。同時に放射線治療も行う。
「効果を得るのに十分な量の抗がん剤を投与しているにもかかわらず、副作用が少ないのがこの治療法の大きなメリット。かなり高い効果が期待できます。手術のできない進行した下咽頭がんや、手術を希望されない方には、有効な治療法の一つです」(福田教授)
●病院名・診療科・医師名・電話・治療方針・特徴
  ●北海道大学病院 耳鼻咽喉科
 福田諭教授 (電話)011・716・1161(北海道)
根治手術、放射線化学同時併用療法、超選択的動注の各治療法を病期と患者の状態に合わせて適切に選択し、優れた成績を得ている
東北大学病院 耳鼻咽喉・頭頚部外科
 志賀清人講師 (電話)022・717・7000(宮城県)
喉頭温存を目的に下咽頭部分切除術や化学放射線療法で好成績。進行例も化学放射線療法とサルベージ手術で生存率の向上を目指す
栃木県立がんセンター 頭頚科
 横山純吉副主幹兼医長 (電話)028・658・5151(栃木県)
手術不能進行例に抗がん剤を用いた超選択的動注を実施。全身への副作用を軽減し、音声や嚥下機能温存と治療成績の向上を得る
国立がんセンター東病院 消化器内科
 田原信医師 (電話)04・7133・1111(千葉県)
下咽頭がんを含む頭頚部がんの治療には頭頚科医と放射線科医、腫瘍内科医が協力し、チーム医療として行っている
癌研有明病院 頭頚科
 川端一嘉部長 (電話)03・3520・0111(東京都)
世界トップクラスのマイクロサージャリーを駆使した再建手術で実績。
年間手術数40~60例。温存手術にも積極的に取り組む
国立がんセンター中央病院 頭頚
 大山和一郎医長 (電話)03・3542・2511(東京都)
初発例、再発例を問わず、適応のある症例には喉頭を温存した下咽頭がん手術を行う。治療成績と術後のQOLの向上に取り組む
横浜市立大学付属病院 耳鼻咽喉科
 佃守部長 (電話)045・787・2800(神奈川県)
強い抗腫瘍性を持ち、かつ高い放射線増感作用を示す化学療法と放射線治療を併用し、喉頭の機能温存と予後の向上に努めている
金沢大学病院 耳鼻咽喉科
 吉崎智一講師 (電話)076・265・2000(石川県)
超選択的動注と放射線療法による臓器温存治療を実施し、従来の咽頭・頭頚部・食道摘出術に匹敵する生存率を得ている
大阪府立成人病センター 耳鼻咽喉科
 吉野邦俊部長 (電話)06・6972・1181(大阪府)
下咽頭がんの年間患者数45~50例で全国有数。特に喉頭機能温存手術に積極的に取り組む。放射線治療科等の他科との連携も緊密だ
久留米大学病院 耳鼻咽喉科
 中島格教授 (電話)0942・31・7622外来(福岡県)
形成・消化器・放射線とのチーム医療により、国内最高レベルの生存率。初期がんに対する音声保存治療に向けて新たな取り組み中