胃がん 薬物療法

化学療法は抗がん剤を使用する目的によって、(1)手術で取りきれずに残ってしまった少量のがん細胞を死滅させて再発を予防する(これを術後補助化学療法と言います)、(2)がんに伴う苦痛を改善したり予後を延長させる目的で使用する、の2つに分類されます。
 (1)の術後補助化学療法は、手術で完全にとりきれなかったがん細胞を死滅させることで、手術単独では治らない患者さんを治す治療です。 一方、この治療は手術で治ってしまう患者さんにまで抗がん剤を投与することが問題です。使用する抗がん剤の効果と副作用を検討した結果、ティーエスワンの1年間の投与が有効であることが知られています。
 (2)の目的で用いられる主な抗がん剤は5-フルオロウラシル、シスプラチン、イリノテカン、タキサン系薬剤(パクリタキセルとドセタキセル)です。最初に行うべき治療は5-フルオロウラシル系薬剤であるティーエスワンとシスプラチンを組み合わせた治療法です。
 この他にも、ティーエスワンにタキサン系薬剤を組み合わせた治療法も期待されていますが、現在までに有効性の証明はされていません。この他、ティーエスワンとシスプラチンにタキサン系薬剤であるドセタキセルを組み合わせた3剤併用療法も検討されていますが、その効果や安全性の十分なデータはありません。
 最近の研究で、胃がんの約20%にHER2(ハーツウ)という細胞増殖にかかわるたんぱく質が多く発現していることが分かりました。2009年の米国臨床腫瘍学会において、HER2を多く発現している胃がんにHER2の働きを抑える分子標的治療薬(トラスツズマブ)を併用すると、予後の改善することが報告されました。この薬剤は乳がんの治療薬として使われていますが、近い将来、胃がんにおける治療薬になると期待されています。
 また、手術成績向上のため、手術可能な患者さんに対する術前化学療法の研究も進んでいます。高度リンパ節転移症例に対するティーエスワンとシスプラチンによる術前化学療法は、術前化学療法なしに比べて優れている可能性が高いことが示されています。現在、高度リンパ節転移を伴う症例に対して、術前化学療法がおこなわれるようになってきています。