肺がんのさまざまな症状への対応:呼吸困難

呼吸困難とは「呼吸がしづらい」「息が詰まる感じ」「空気を吸い込めない感じ」などの自覚的な症状です。
呼吸困難がおこる原因
呼吸困難がおこる原因として、大きく分けて3つの原因があります。
1)肺及び気管支などに原因があるもの
•肺のがんが大きくなり呼吸容積が減少
•気管や太い気管支のがんによる気道の狭窄(きょうさく)
•気管や気管支に痰が詰まることによる気道の狭窄
•胸水
•がん性リンパ管症
•肺炎・気管支炎
•薬物・放射線治療による肺炎
•肺切除術による肺容積の減少
•持病である慢性気管支炎、肺気腫、気管支喘息などの悪化
2)肺・気管支以外に原因があるもの
•大量の腹水による横隔膜の圧迫
•心不全
•心嚢水(しんのうすい)
•頸部原発のがん、頸部へのがんの転移、がんに伴う浮腫などによる上気道狭窄
•強度の貧血
•便や腸内ガスの貯留による横隔膜の圧迫
3) 心理的な原因があるもの
•病名や予後についての不安や精神的ストレス
呼吸困難に対する治療
呼吸困難に対する治療として、呼吸困難の原因に対する治療と呼吸困難の症状を緩和させる治療があります。
1)呼吸困難の原因に対する治療
呼吸困難の原因となっている病状の解決を目指す治療です。例えば、肺炎に対する抗生物質の投与、胸水貯留に対する胸水の穿刺排液、貧血に対する赤血球輸血などがあります。
2)呼吸困難の症状を緩和させる治療
呼吸困難の原因の解決が難しい場合には、呼吸困難の症状を緩和させる治療を行います。
(1) 酸素療法
酸素吸入を行うことにより、低酸素状態になった組織の機能を改善し、自覚症状を軽くすることができます。呼吸困難があって自宅で過ごしたい場合、簡単な酸素吸入の器械を自宅に設置して日常生活を過ごすことができます(在宅酸素療法)。酸素を吸いながら、食事や入浴・排泄・散歩など、状態に応じて身のまわりのことを自力で行うことも可能です。あなたの病状に在宅酸素療法が適しているかは、担当医にご相談下さい。
(2) 薬物療法
呼吸困難を緩和させる薬物療法には、モルヒネが使われます。モルヒネには息苦しいと感じる中枢の感受性の低下、呼吸数を少なくすることによる酸素消費量の減少、鎮咳作用があるとされます。
気道狭窄、がん性リンパ管症などにはステロイドホルモンも用いられます
呼吸困難の症状を軽減する工夫
呼吸困難の症状を軽減するためには、ふだんからどのような動作により呼吸困難が軽減するか、あるいはどのような動作で呼吸困難が増強するかを知っておくことが大切です。また、咳や痰の有無、腹部が膨らんでいないか、発熱、便秘、不安、不眠などがないか注意しておくことも大切です。
1)環境の調整
呼吸困難を増強させる原因として、不適当な温度、湿度、塵埃などがあげられます。室内の換気に配慮したり、たばこを吸われている方は禁煙をするなどして生活環境を整えましょう。室温を少し低くしたり、窓をあけて風を入れる、扇風機をまわす、顔をうちわであおぐなどして涼風を感じるようにすることも効果的です。
また、生活する部屋を1階にしたり、トイレに近い場所にするなど、生活しやすくするための工夫も重要です。吸い飲み、ティッシュ、リモコンなど日用品を手の届くところに置き、あまり身体を動かさなくても済むようにします。
2)楽な姿勢の工夫
衣類や寝具などによる緊張や圧迫を避け、起こせるベッドや枕・マットレスなどを利用し、上半身を起こした無理のない姿勢にします。これは、横隔膜を下げて呼吸面積を広げ、さらに下半身を下げることによって静脈血液の心臓への戻りを少なくし、肺の負担を軽くします。しかし、がんの場合、骨転移・むくみ・全身衰弱による苦痛の強さは個人差があるので、一番楽だと感じる姿勢にするのがよいでしょう。ただし、長時間同じ姿勢のままだと床ずれの原因になりますので、計画的に姿勢をかえることが大切です。その際は、ゆっくりと姿勢をかえるように心がけましょう。
3)痰を出す工夫
痰がたまると呼吸困難の原因となるので、痰の出し方を工夫する必要があります。水分が不足すると、痰が粘りを増して出しにくくなるので、水分の補給やうがいを行いましょう。
また、長時間同じ姿勢でいることで痰がたまります。それを防ぐために、姿勢をかえたり、胸の上に置いた介護者の手を細かく振動させることで痰を気道から離れやすくします(振動法)。また、息を吐く時に下部胸郭を両手で圧迫する咳そう介助は、胸腔内膜を高めて有効な咳をするのを助けます。 痰を出しやすくする薬の服用や吸入について担当医と相談してみましょう。
4)食事について
呼吸困難時は食欲が低下するため、呼吸が楽な時に食べられるよう配慮しましょう。高カロリーで、食べやすい食事を準備します。 乾燥したものより、水分の多いもののほうが食べやすいようです。一度に多く食べられない場合は、食事回数を増やしたり、時間をかけてゆっくり食べられるように工夫します。食べるとむせやすい方には、みそ汁やスープなどの汁物にはとろみをつける工夫をしたり、食べやすいヨーグルトやプリンを取り入れるなどの工夫をしてみましょう。薬局でとろみをつける増粘食品やゼリーを購入する方法もあります。
また、呼吸や汗などにより口の中が乾きやすくなるので、手の届く位置に好みの飲み物を置いておくなどの配慮をします。頻回のうがいを行い、乾きを和らげるよう心がけましょう。
5)排便の調節
呼吸困難による体動制限、食事量の低下、咳止めや痛み止め・麻薬などの使用により、便秘になりやすくなります。さらに、排便時に力む間は規則正しい呼吸ができないために、呼吸困難を増強させます。排便を容易にするために、繊維分を多く含んだ食品をとり、水分を多めにとるよう心がけましょう。
また、便秘薬を適宜使用したり、腹部マッサージを行うなどの便秘対策が必要です。排便習慣にもよりますが、3日以上の便秘には排便用坐薬・浣腸などを使用し、なるべく早く解消するようにしましょう。
6)衛生面
頻回の呼吸や痰により口の中が乾燥しやすくなり、感染をおこしやすくなります。感染は全身の代謝を亢進させ、酸素消費量を増します。特に気道感染(風邪)は、呼吸困難を急激に悪化させるため、うがいや歯みがきなど、口腔内を清潔に保つことが重要です。
また、入浴により疲労し、呼吸困難が増強する場合があります。呼吸困難の程度に合わせ、入浴時間を短くしたり、シャワーだけにしましょう。また、症状が強い場合は暖かい日を選んだり、室内の温度を調節したりして熱いタオルで身体をふくとよいでしょう。水で絞ったタオルを電子レンジで加熱すると、簡単に蒸しタオルがつくれます。
7)睡眠
十分な睡眠がとれないと呼吸困難を増強させます。一般に、夜間は精神的な不安が増すので、不眠を招きやすく体力を消耗してしまいます。短時間でも熟睡感が得られると、気分が好転して闘病への意欲につながります。
熟睡できるように遮光したり、騒音防止の工夫をするとともに、眠ってしまうまでだれかがそばについているなどの配慮も必要です。
睡眠中に痰がたまったり、咳が出たり痛みがあったりすると睡眠不足になります。眠る前に十分に痰を出すように心がけましょう。加湿器を利用すると、比較的痰は出しやすくなります。咳がひどい場合、痛みがある場合は、担当医に相談して咳止め・痛み止めを処方してもらうとよいでしょう。
不眠が続くようであれば、睡眠剤について担当医と相談して下さい。
8)不安の軽減
不安や恐怖は、呼吸困難をいっそう強くします。訴えをよく聞くなど、コミュニケーションを十分にとって、できるだけ安心してリラックスできるようにすることが大切です。
また、呼吸困難が強くなった場合には、担当医と相談し、早めに受診するなどの対応をして下さい。
9)コミュニケーションの工夫
不必要な会話は酸素消費量が増え、呼吸困難を増強します。また、コミュニケーションの障害は精神的ストレスを引きおこします。意思疎通の合図を決めたり、ゆっくり話すようにしましょう。常に、ゆったりした気持ちで過ごせるように心がけましょう。
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