精度が飛躍的に向上した肝臓がん手術

胃がんや大腸がんなど他の消化器がんに比べると、肝臓がんの外科治療の歴史はきわめて浅い。たとえば胃がん手術の場合には150年の歴史があるが、肝臓がんのそれは60年ほどにすぎない。それは肝臓がん手術の難しさを物語っていると高山さんはいう。
 「肝臓がんは発見された時点で、すでにかなり進行していることが多いことに加え、肝臓そのものが血液の塊りのような臓器で、手術には大量出血の危険がともないます。そのために手術は現実の治療法として定着せず、手術が始められてからも、なかなか成績は上がりませんでした。それが1985年に肝臓を8ブロックに分けて、それぞれの部分だけを切除する区域切除術が行われるようになって、治療成績は飛躍的に向上したのです」
 これは当時、国立がんセンターに在籍していた幕内雅敏さんが考案したもので、幕内術式とも呼ばれる。この区域切除術が定着してからは、それまでは5~6000ccにも達していた出血量が平均1000cc程度に減少し、手術による死亡率も80年代で15パーセント、90年代で5パーセント、現在では1パーセント前後にまで減少している。
 高山さんが在籍している日本大学付属板橋病院消化器外科では、手術にともなう平均出血量は、献血量と同程度の400cc前後で、この数年間は手術による死亡は0に抑えられているという。